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2008年07月01日

【陽はまた昇る】

1万打&2周年記念でございます



「藻笠 明、特殊部隊情報部所属の人だね」

にこり、と笑って奏音は言った。
何でも知っているのが流石である。
風埜はふぅん、と返すと隣で寝転がって静かに眠っている同僚に視線をやった。
そんな様子を見て奏音が微笑む。

「夫婦みたいだね」
「誰と誰がだ。…こいつがいきなり倒れたからな、仕方なく」

言って、男のくせに長い髪を軽く引っ張ってやる。
男のくせに、綺麗な髪して。

―――血の色になんか染めて

帝兎は戦闘に出る時は必ず髪を赤に染めた。
そういうスプレー的な簡単に染めれるものがある、らしい。

そして服はというと、これまた赤い派手な服。

理由を知っているからこそ止められないのだと思う。

「明さんは兎さんと仲悪いよね。明さんが、怪我してから」
「そう、だな」

ふわ、と赤い髪を撫でた。
瞬間、がばっと勢いよく起き上がる彼。
そして一言、

「触るな、」
「なら早くその色落とせ」

生意気に返してやると、無言で部屋を出ていった。
それを視線で追うと奏音は静かに語り始める。

「あの手で、何人の人を傷つけたんだろうね」
「さあな」
「何で、世界は平和なんだろう」

そこで風埜は黙りこんだ。
奏音は膝を抱えて軽く俯いた。

「こんなに、傷ついてる人がいるのに、世界は何ともないんだね」
「…そうだな」
「僕らが死んでも、変わらないのかな」

泣きそうな声を出す奏音に風埜は頭を撫でてあげることしかできなかった。

違う、と断言出来ない自分が憎い。
世界が憎い。時間が憎い。
たとえ誰かが消えても陽はまた昇るし、夜がくる。

「でも、私は奏音が消えたら悲しく思う」
「…うん」

仕事だから、とかそんな薄っぺらいことは言えない。
この子どもは私以上に悩んで、苦しんで、必死で今の生活がくるまで耐えていたのだから。

「親父さんだって悲しむ」
「お父さんは、優しいからね」

そうやってまた無理に笑う。
親父さん、もとい隊長は奏音を実の子どものように見ているのに、この子どもはそれを見ようとはしない。
受け入れようとはしない。

現実を見るのが怖いのか、離れる時を思うと関係を持ちたくないのか、或いはその両方か。

「奏音、」
「兎さんの様子見てくるね」

言うくらいなら、逃げ出せばいいのに。
逃げ出すことすら億劫なのだろうか。

誰もいない空間に、嘆息した。
今日の夜も長そうだ。




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Posted by 兎月 at 13:22│Comments(0)企画
 
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